PEUGEOT

with

ちいさなライオンたちにも宿る、爽快で快適な走りをもたらすテクノロジー。
知れば知るほど虜になるプジョーのフレンチテックを、
クルマのテクノロジーを図解する自動車雑誌「モーターファン・イラストレーテッド」
編集長の萬澤氏がアカデミックに解説します。

講師:萬澤龍太(まんざわ・りゅうた)
モーターファン・イラストレーテッド 編集長

1972年神奈川県生まれ。2輪/4輪誌の編集、経営・経済誌の編集、自動車の工学書の編集などに携わったのち、2008年1月に三栄書房(現・三栄)へ転職。自動車の技術を図解と写真で紹介する『モーターファン・イラストレーテッド』編集部に配属される。2022年4月より現職。好きなプジョーは405。

POWER OF CHOICE

ガソリン、ディーゼル、EV、
それぞれに息づく
フレンチテックとは

ディーゼルエンジンの魅力

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ディーゼルの燃費が良い理由は?

ターボがいい仕事をしているからです。
ディーゼルエンジンはターボで空気多め/
燃料少なめで運転できます。
エンジンが仕事をするうえでもっとも欲しいのは、実は空気。ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと違っていくらでもシリンダーに空気を詰め込めるので、燃えるもの=酸素を多く取り込み、仕事量を相対的に高く得ることができます。燃料についても、軽油は燃えたときのエネルギーがガソリンに対して大きく、これを超高精度で緻密にシリンダー内に直接噴射することで、高いパフォーマンスなのにとてもクリーンでエコノミーという運転を実現しています。
2

ディーゼルの排気は黒い?

最新のディーゼルの排気は
黒いなんてとんでもなく、ひょっとすると
吸った空気よりもきれいかもしれません。
各国の排気規制が厳しいおかげではありますが、現代のディーゼルエンジンは排出物について徹底的に量を低減しています。そもそも排出物が出ないように燃焼させるのに加え、それでも出てしまう排出物については、気体については化学的に処理して無害化、固体については濾過して捕捉したうえ、たまったら再燃焼という手段をとっています。したがって、始動直後から高回転高負荷時にいたるまで、まるで隙なくクリーンという性能を誇ります。
3

ディーゼルを選ぶ理由を教えて!

燃料代の安さ、発進加速の力強さ、航続距離の長さ、燃費の良さ、
乗り味の重厚さ、など、たくさんあります。
幸いなことに、日本では軽油はガソリンよりも価格が低く、さらに非常に高品質なことも自慢です。高品質であることを前提に、超精密な燃料噴射装置を使えるというメリットを享受できています。発進加速の力強さと燃費の良さは、ディーゼルエンジンの燃焼の仕方による大きな特長。ターボによる「空気多め/燃料少なめ」の効率的な燃やし方で大トルクを発揮、さらに8速の多段オートマチックトランスミッションがこれを増幅し、ドライバーの過減速要求に対し即座かつスムースに応答します。
4

では逆に苦手なところは?

頑丈な構造による重さ、精密機器がゆえの価格、
燃焼方式による振動など。
でもすべてメリットの裏返しです。
※図版提供:モーターファン・イラストレーテッド
シリンダー内に詰め込んだ空気をぎゅうぎゅうに圧縮して高温高圧にし、そこに燃料を噴射すると一気に燃え広がるというのがディーゼルエンジンの燃焼の原理。その「ぎゅうぎゅうに圧縮」のためにエンジンを頑丈に作らなくてはなりません。また「そこに燃料を噴射」というタイミングは猛烈に短い時間軸の話で、さらによく燃えるよう燃料を霧のように細かく噴くために超高圧で噴射する装置を備える必要があります。「一気に燃え広がる」ことはパフォーマンスとしては好ましいのですが、それだけ振動と騒音の発生にもつながります。しかし、いずれもディーゼルエンジンの美点を実現するためなのがおわかりになるでしょう。
5

ディーゼルは100%ターボエンジン!

現代のディーゼルエンジンはすべてがターボチャージャーを備え、
低燃費とパフォーマンスを両立しています。
エンジンが欲しいのは酸素。自然吸気エンジンではシリンダーの容量以上を吸い込むことは難しいのですが、ターボを使って圧縮した濃い空気を吸い込めば、相対的に酸素の量は増え、それだけ大きな仕事をこなすことができます。ガソリンエンジンでは、詰め込み過ぎるとおかしなタイミングで勝手に着火してしまう現象=ノッキングを避けるため限度がありますが、ディーゼルエンジンは燃焼の仕組みからしていくらでも詰め込むことが可能。よって、高過給高効率エンジンが実現しています。
6

ディーゼルの直噴の仕組みは?

クリーンなのにパワフルな現代のディーゼルを実現するのが、
超高圧で燃料を噴くコモンレールシステムです。
※図版提供:モーターファン・イラストレーテッド
シリンダーで圧縮した高温高圧の空気に向かって燃料を噴き、一気に燃やすのがディーゼルエンジンの燃焼の仕組み。きれいに燃やすためにはベシャベシャビチャビチャではなくシャッと、とにかく細かい霧を一瞬で噴きたい。燃料の粒が大きいと燃え残りが生じ、これがススの原因となってしまうのです。噴霧のキーテクノロジーがコモンレールシステム。2000気圧とか2500気圧というもはや想像もできないような超高圧を用いて、燃料をワンサイクルで複数回噴くという離れ業をこなしています。

ガソリンエンジンの魅力

1

なぜ3気筒エンジンなの?

「小さい4つ」よりも「大きな3つ」のほうが、
効率からも構造からも性能からも、メリットが大きいのです。
たとえば1000ccのエンジンを作るとなった場合、250ccずつの4気筒ではなく、333ccずつの3気筒とすると、部品点数を1気筒分減らすことができます。コストや重量はもちろん、摩擦抵抗も減らせるのはご想像のとおり。燃焼したときの熱が逃げる割合=熱損失も減らすことができ、低燃費を実現することができます。さらに、4気筒では「全気筒のピストン折り返しタイミングが一致=2次振動の発生」が不可避であるのに対し、3気筒は構造上それが相対的に小さいのも特徴です。
2

直噴ターボエンジンのメリットは?

かつてはパワーの権化だったターボ、
いまは低燃費のための必須デバイスです。
直噴がそれを大きく助けます。
いってみれば風車とも言えるターボの仕組み、大量の空気を圧縮するためには大きな羽根車が必要で、応答性に難があります。現代のターボはそれとは逆に応答性を追求し小径化、必要なときに即座に過給できることを何より重視しています。最高出力ではなく普段の運転時の性能を重視しているからこそ実現している技術です。ターボによって圧縮した酸素過多の空気を吸い込み過ぎると異常燃焼を起こしやすくなってしまうのがガソリンエンジンの悩みの種。ならば火を着ける直前に直接燃料を噴けば、熱くなりすぎたシリンダー内も冷えるし燃料もよく混ざるじゃないか。これが筒内燃料直接噴射技術=直噴の最大のメリットです。ターボ過給と非常に相性の良い技術と言えます。

電気自動車の魅力

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EVはエンジン車とどう違う?

エンジン車とは比較にならない発進直後の猛烈なトルクが自慢。
変速機もなく滑らかな加速感を愉しめます。
エンジンは「回していくにつれて力が出る」性質、乗用車用の駆動モーターは「回し始めがいちばん力が出る」と、見事に逆の性質を持っています。両者の得失をうまく組み合わせるのがご存じハイブリッド車、一方でモーターだけを用いるのが電気自動車です。「回し始めがいちばん力が出る」ことから、クラッチやトルクコンバーターといった発進装置が不要、常用速度域とギヤ比(最終減速比)をうまくバランスさせることで変速機も要らずというパワートレインを実現できます。
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EVはクルマの重さが気になる?

電池自体は重いですが、クルマの中央部にあるため影響は小。
軽くて強いボディも軽快さに寄与しています。
重いものが四つのタイヤの外側にぶら下がっていると、過減速や旋回時に大きな影響があるのは想像できるでしょう。エンジン車、とくに前輪駆動車は駆動輪に荷重を載せるためにどうしてもエンジンを最前に置く必要があるのに対し、電気自動車は部品群で一番重量のあるバッテリーはキャビン下に平らに収められるため、結果として「重いはずなのに軽快」という不思議な感覚をもたらします。着座位置のすぐ下が頑丈なバッテリーパックで固められていることも、好感に大きく寄与します。

Comfort & Safety

プジョーならではの快適性と
安全性を実現するフレンチテックとは

サスペンション

1

「乗り心地がいい」ってどういうこと?

個人的には「クルマが入力を受けたあとの収束の早さ」
「ドライバー操作に対する遅れの少なさ」と思います。
ほぼすべてのクルマは一人乗りではなく、多人数乗車です。ドライバーにとって気持ちがいい運転感であることはもちろん必要ではありますが、「ドライバー楽しい/同乗者不安」であってはいけません。乗り心地がいいとは人によって判断基準が大きく異なるものの「クルマの動きが素直」であれば不快に思うことは少ないでしょう。クルマが素直であるために必要なのは、構造として必要以上に複雑でないこと、軽く丈夫に作ること、機械的な配置に無理がないことなどが挙げられます。プジョーのエンジニアリングは、これらをスマートかつリーズナブルに満足しているように感じられます。
2

プジョーの乗り心地はなぜいいの?

前輪駆動だけど乗り心地の肝はリアサス。
軽くて強い後ろ脚がよく動くのでクルマの動きが素直になります。
重たい前+軽い後ろの物体が段差を乗り越えたとき、前は重たさで比較的早く動きが落ち着くのに対して後ろはバタンバタンと暴れてしまいます。後ろを前と同じようにストンと収束できればクルマ全体が平和に走り続けられるような気がしますね。前後軸距離=ホイールベースが短いクルマであるほどその傾向は顕著で、小型車の設計の妙とも言えます。プジョーのリアサスはトーションビームアクスルという方式で、左右を半分つないだようなとても軽くてシンプルな一体構造。取り付け部の軸配置、ばねとダンパーの設定が職人技ともいえる絶妙なセッティングで、細かい振動から旋回時の大入力処理まで、オールラウンドで素直な動きを実現しています。

コックピット

1

小さくて低いハンドルの秘密

小さくしただけでは操舵感や車両挙動がピーキーになるだけ。
軽快なのにしっとり、というのは相当の技です。
小径ステアリングホイールが何より目を引くi-Cockpit。通常のクルマだとハンドルの間から覗いていたメーターパネルは小さいハンドルによって完全に視界に入るレイアウトとなり、しかもダッシュボードの高さも抑えられることから、運転時の視界が開けることとなりました。でも想像してみてください。ハンドルを小さくするって、実は結構大変な作業。自転車のハンドルを中心側で握ると、曲がるときにはいつもより力が必要ですし、そもそも力を入れると急にぐらりとします。i-Cockpitは腕の動きは少なく力も多くを必要としないけど、クルマの動きは急変しない。相反する要素を非常に高度に両立させているのです。
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プジョーのシートはなぜいいの?

ソフトなところは徹底的にソフトに、
ホールドしなければならないところはしっかり保持するからです。
たっぷりとしたふわふわのソファで運転できるかといえば手足が自在に動かせないのは明らかだし、パイプ椅子みたいな小さくて華奢なシートだと、走る・曲がる・止まるのたびに身体が動いてしまい上手に運転できそうにありません。欲しいのは体幹の支えとリラックスのための容量の確保。骨盤が起きる背面下部の構造、腿裏を膝までしっかりと支える座面長と形状、しかしペダルの操作を妨げない形状と柔らかさ。尻部の面圧を適度に分散させ、長時間座っていても鬱血しないような硬度、左右にクルマが振られても上体をぶれさせない背面上部のやわらかさ――ひとつのシートにはいろいろな機能が盛り込まれ、ドライバーを文字どおり支えています。

ボディ

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プジョーの軽快感を生み出すテクノロジー

クルマの土台にあたるプラットフォームの設計が「軽くて強い」を両立しているのが大きな理由のひとつです。
プジョーが用いる車体設計基盤技術:先代308とともにEMP2* が登場したとき、ライバルより数百キロ軽いスペックに驚きました。軽くするとデメリットが生じがちですが、旋回時にボディが歪むようなことはないし、巡航していてもおかしな振動が伝わるわけでもない。小型車用の同技術:CMP** でも感想は同様で、上手に設計しているなと感心します。おそらくプジョーは「ボディに無理をさせない」ことで、絶妙なバランスを実現しているのではないかと思います。エンジン出力を無理に欲張ったバリエーションを設定しない、駆動系はシンプルかつスムーズを最優先事項とする、だからサスペンションはよく動くセッティングに集中できる――というイメージです。*エフィシェント・モジュラー・プラットフォーム2
**コモン・モジュラー・プラットフォーム
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強さと軽さの秘密

基本的に軽さと強さは両立しにくいところ、
形状や配置でクリアすることで長寿命にもつなげている印象です。
燃費に優れていたりクルマの動きに遅れがなかったりと、軽いことにはさまざまなメリットがあります。じゃあどんどん軽くすればいいじゃないかとなりそうですが当然デメリットがあります。わかりやすいのは衝突安全性で、クルマはぶつかったときに乗員保護のため、つぶれてほしいところと変形してほしくないところを作り分けますが、軽さを追求し鉄板を薄くするとうまくいかなくなる=強度が落ちます。普段の走行時にも、薄い鉄板は震えやすいので振動騒音特性が悪化する傾向=剛性が落ちるわけですね。これをカバーする手段は、お金か知恵。前者は「薄いのに硬い」材料を使うことで、後者は「薄いけど歪みにくい」形状とすることで解決を図ります。ハッチバックボディはリヤの開口部が大きいことから、走っている最中に入力を受けると抜け感やきしみなどを感じがちですが、208はコンパクトで小さいクルマにもかかわらず、そのような印象を受けることは極少でした。軽さと剛性を上手に設計しているためと思われます。